世界のはじっこでの日常生活。思考生産物の物干し竿。


by miomio
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この国には何でもある。だが希望だけがない

村上龍の文章が好きだ。

なんていうか、えぐいことをえぐいまま書かないで
フィルターを通したように
どこか静けさというか冷たさが漂う空間を作り上げる。
そしてそこに鋭い真実がぎゅーと凝縮されている。
彼の文章は、いつもとても静かだ。
村上春樹のクールでインな世界感とも違って
なんかもっと下世話で卑近で騒がしいのに、音が抑制されている。
村上春樹の舞台がリビングルームで井戸の中だとすると
村上龍の舞台はコンビニでクラブで中学校だ。

辻仁成の文章は酔いすぎてて、フィクションなのに
「(こういう話を書いてる)俺は才能があってかっこよすぎる」
芳香が漂ってきて癪に障る。
絶賛している人もたくさんいたけれど、
「サヨナラ イツカ」はちっとも琴線に響かなかったし
自分の奥さんを主演にしちゃうのも
そして久々にメディア登場にパンテーンのシャンプーCM並みに
艶々の黒髪で出てきて
「あ、やっぱり私この人嫌いだわ。」と再確認。
ナルシな男はガクトだけで十分。
あ、別に辻仁成はどうでもいいんだった。脱線脱線。

で、何を読んだのかというと
「希望の国のエクソダス」
いや、パキスタンに持っていったのに全く開かなかった5冊のうちの一冊。
最初の一文が

どうしてテツがパキスタンに行かなくてはならないの、だ。

うっわー。なぜ出てくるパキスタン~!と思ったのだけれど
久しぶりにぐいぐい読める小説に出会ったという印象。
8年前に書かれた”近未来小説”
舞台は2001-5年なんだけれどとっても近未来風。
村上龍特有の、腐らない鮮度をもつ文章だから故。
なんていうか星新一なんかもそうだったけれど
荒唐無稽なストーリー展開のように思えて(当時)
しばらくたって紐解いてみると現代の潮流と奇妙な整合性があって
背筋がひんやりする。感覚が研ぎ澄まされる。
フィクションなのに、ドキュメンタリーのようなリアリティが見え隠れする流れ方。
不登校児が全国的に増えて
でも力を利用した革命を起こすわけではなく
頭脳と才能を駆使して機能不全の日本社会にドロップキックをかます話なのだけれど、
中学生が決してヒーローじゃなくて、カリスマあるのに、
熱さにみなぎったりしてなくてどこか欠けてる自覚もあって
物語の軸になるストーリーテラーのテツさんとその相方の由美子さんが
まるまる私の年代で(感覚的に一番やっぱり共感する)
普通の感覚と新世代のずれと惹かれる感覚をうまーく表現してくれて
とにかく出てくる大人は「ああこういう人いるいる」という
元気も気力もカリスマもない人たちなんだけれど
それが悪者なんじゃくて逆に「弱者」となって描かれてる。
「僕らの7日間戦争」的な(物語として)ありがちな展開じゃなくて
先が読めない中学生と
”普通”の感覚をもちながら、中学生にInspireされる中間世代と
もう成長幅の感じられないしぼんだ大人が織り成す
壮大な日本叙事詩だ。で、結構これがリアルなんですよ。
リアリティのないリアル。
でもほら、今の社会
昔にはありえなかったリアルに溢れているじゃないですか。
私たちの「リアリティ」の標準をちゃんとグレードアップしているかどうか聞かれたら
やっぱり年代によってアップグレードの差は歴然としている。
今の子どもをちゃんとわかってないから
これだけひきこもりも増えるんだろうし、
昔だったらありえなかった親殺し、子殺しもでてくるのだろうし。

中学生ってやるせない年代ではあるのだけれど
それを猟奇的殺人事件に仕立て上げないで
逆に「日本再生の旗手」になりえるかも、という期待をちらつかせながら
いやそんなにうまくいくわけないだろという闇の存在を感じながら
今の機能不全の日本が少しずつ崩れていく様子を
とまどいながらじーっとガラス越しに眺めている、そんなお話。
いや、村上龍、すごい。

「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。
だが希望だけがない」

そう子どもに問われたときに、
自信を持って答えられる大人が今の日本にどれだけいるだろうか。
お勧めです。

★★★★★
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by miomiomiomion | 2010-11-24 00:25 | みおの本棚