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世界のはじっこでの日常生活。思考生産物の物干し竿。


by miomio
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地平線の見える職場

ソマリアの素敵なところは、地平線が360度くっきり見えること。
大きな空にすっぽり包まれて、どこまでも続いていく地平線をみていると
自分が世界の真ん中にいる実感をもちつつ、
卑小な意味じゃなくて、大きな世界や大自然への畏怖というか
ああ、私はちっぽけな存在なんだなぁとすーっと受け入れられる。
だから、逆に自分の立ち位置を見失うことがない。
大きな大地に、ぽつんとたつ自分。
その周りに、国難避難民がたてたカラフルなテントが点在する。
父さんがいて、母さんがいて、じいさんがいて、子どもがいて、猫がいて
隣人がいて、同僚がいて、みんながちゃんと視界の中にいて
一緒にお茶を飲んだり、話をする。
車に乗っても、屋根にも乗れて、誰がどこで何をやっているか
監視カメラなんてなくても、みんなちゃんとわかっている。
そんな社会。

高い高層ビルのスキマから
曇った小さな月明かりをみるような都会や、
子どもが自分の部屋の扉をきつくきつくしめて
ネットを見ながらごはんを食べるような、
そしてそれを家族が容認してしまうような
仕切りと壁だらけの社会では
人間が小さな人工空間に閉じ込められてしまって
自分と社会の境が断絶してしまう。
ネットで社会につながっていても
そこにある「世界」は「実感」と「人のぬくもり」とは程遠い。

ソマリアには、引きこもれる空間がない。
国内避難民の住むテントは、
木の枝と布でできた5人もはいれば
いっぱいいっぱいなスペースに
大家族とその親戚が寝泊りしている。
当然エアコンなんてないから、
日中いるのは熱すぎて無理、だから
人はみんな外にでてきて、
人が集まる大きな木の下や、
ほったて小屋の喫茶店や
昨日の雨で水が集まった即席の池に行く。
即席の池で、小さな子どもが大喜びで
ジャンプして、めちゃくちゃなフォームで泳いでいる。
私が行くと、はじけるような笑顔で、みんなが手をふってくる。

そこにあるのは圧倒的な貧困の姿なのだけれど
驚くほど、「みじめさ」がない。

「お金がないから、3日食べてないんだわー」という
おばちゃんも、全然悲惨な感じでなくて、
「お茶ばっか飲んでるわー」と笑う。
「あんたら、調査調査いうて、来てばっかりでなんもしてくれてないじゃない」
と叱られる。
もちろん、栄養失調の子どもも、小さくしなびたおばあちゃんもいるけれど、
でも、避難民のキャンプにいって圧倒されるのは
そこに存在する、噴出する生きる人間のエネルギー。
避難してくる中で、財産をなくし、家畜をなくし、
夫と離れ離れになったり、子どもが死んでしまったケースもある。
でも全てが「神の思し召し」であり、
残った自分たちが生き延びようという
人間としての底力。
そこにあるのは、涙でも諦めでもなくて
静かで確かな人間の本能。

太陽がカンカンに照っている中で
難民キャンプの聞き取りをするのは決して楽な仕事ではないけれど
私には帰ればエアコンの効いたオフィスがある。
7時半になれば、あったかいごはんがある。

でもそれだけじゃないんだ。
快適さは生活をラクにするけれど
人間を幸福にするわけではない。

地平線の見える場所で、人間の生きるエネルギーに触れられるところで、
確実にここで感じたことを、みつけたことを
具体的な計画にして、他の国連機関やNGOとともに動く毎日。
大きな志とたくさんの物語をもった同僚とともに
文句をいいながら、けんかしながら、たくさん感じて
いっぱい働く。

今の日本はさーとかいうつもりはあまりないのだ。(そりゃたまに言うけど)
私は正真正銘の日本人だけれど、今の日本の社会変革に関しては部外者だもの。
でもね、日本の若者が、やる気と愛情とインスピレーションをもって
世界に出て行くことで、生み出せるものがある。

今、私が選んだ居場所は、そしてやれることはここにある。

広い地平線をみていて、飽きることがないように、
フィールドにでて働いていて、疲れることがない。
世の中に、人に、大地に
がっつりつながっているというこの実感は
いつも私を元気にする。
by miomiomiomion | 2010-05-03 22:03 | お仕事